第64回「A Day In The Life」(1967)/The Beatles | 柑橘スローライフ

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The Beatlesの最高の名盤アルバム、 

サージェント・ペパーズ・ロンリー・ ハーツ・クラブ・バンド 

(Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band) 

 

私があえて言うまでもないことですが、

ロックという限定的な範疇のみならず、 

軽音楽史の中でも非常に重要な作品であり、 

更に言えば、軽音楽史にも限らないと思います。 

 

そのサージェント・ペパーですが、 

1967年の発表なので、今年は記念すべき 

50周年ということになるわけですね。 

そんなことで、約2年3ヶ月ぶりに、 

ロック名曲百選の更新を致したいと思います。 

 

今回僭越にも触れてみたいと思った曲は、 

サージェント・ペパーというアルバムを 

非常に価値あるものと決定的に印象付けた

楽曲と言える「A Day In The Life」です。 

 

因みに、ア・デイ・イン・ザ・ライフという 

タイトルは曲中の歌詞の中に出てきません。 

お好きな方であればご存知かと思いますが、 

このような曲は、ジョン・レノン作曲の 

ビートルズ作品には稀にあり、 

Tomorrow Never Knowsなどがそうですね。 

奇しくも同様に「日」に関連するタイトル 

というところが興味深いです。

 

 

(以下は大変細かい内容となりますので、

楽曲の分析にご興味のある方だけ、是非お読みください) 

 

さて、それでは静々と、和声を主体として、 

楽曲を分析させて頂くことに致します。 

基本的に、詞作内容については触れません。 

 

(曲の構成) 

曲の構成は概ね以下のようになっています。 

①前奏 ②ヴァース 

③管弦楽器による盛り上げ  

④展開部 ⑤最終ヴァース 

⑥再度管弦楽器による盛り上げ

⑦ピアノ多重録音による最終コーダ 

この順を追って分析していきます。 

 

この構成自体が極めて画期的なものであり、 

ビートルズの斬新さと革新性をまざまざと 

見せつけられる思いがします。

 

 (①前奏) 

アルバムタイトル曲である、 

サージェント・ペパーのRepriseが終わり、 

SEの歓声のフェイドアウトとともに、 

アンコールという設定の上で曲が始まります。 

(貼付音源ではその辺りあまり判りませんが) 

 

アコースティックギターのストロークと共に、

ピアノが荘重に響き、ヴァースの歌いだしに繋がっていきます。 

既にこの前奏の響きによる雰囲気からして、 

この曲全体の「重さ」が伝わってくるような気がします。 

 

ここでの和声は、次なるヴァースとの 

関連からGキーと推察できるため、 

Ⅰ→Ⅲm→Ⅶm→Ⅳ(1-3-7-4) 

と考えられると思います。 

 

ピアノはサブドミナント(Ⅳ=4)の 

Cの和音からぐっと重く入り込んできて、 

とても印象的に感じます。 

 

かの指揮者のレナード・バーンスタインが、 

この曲の「3小節がいつも私を若返らせる...」 

といったような事を語っているのを遠い昔に

何かで見たことがあるのですが、3小節と

いう半端さから、その3小節というのは、

この冒頭の出だしか、ヴァースの歌いだしの

何れかの事を言っていると思うのですが、

その「3小節」という言葉の意味は、

恐らく「直ぐに感じられる」といったような

事ではないかと推察します。 

 

(②ヴァース) 

ジョン・レノン作曲による、 

非常に印象的な旋律を持つVERSE。 

ジョン・レノン作曲の旋律の中でも 

とても美しいものの一つだと思います。 

そして、歌い方も素晴らしいですね。 

 

私はこの旋律を聞くと、今でも常に 

鳥肌が立つような戦慄を覚えます。 

まさに「戦慄を覚える旋律」 

バーンスタインも、もしかしたら、 

同じように感じたのかも知れません。 

 

物心つかない時なのか、はては前世なのか、 

記憶の渦に巻き込まれるような感覚となり、 

どこか物凄い懐かしさというのか、 

名状しがたい感覚となるのです。 

 

ここでの和声で重要なことと感じるのは、 

バス音がⅠ→Ⅶ→Ⅵ→Ⅴ→Ⅳ→Ⅲ→Ⅱと

 (1→7→6→5→4→3→2) 

Gスケール上で一音づつ下降していく所で、

実際のコード進行で表すと、

G→G/G♭→Em→Em/D→C→C/B→Am 

(基本的な和声はⅠ→Ⅵm→Ⅳ→Ⅱm) 

ということになり、Am(Ⅱm)で一巡し、 

また最初のG(Ⅰ)から降り出し、

ということになるわけです。 

 

(上記進行はバス音の下降をわかりやすく 

表現したもので、実際のコードとしては、 

G/G♭などはBmないしG△7と捉えたほうが

いいかもしれません) 

 

これは和音を「クリシェ」によって 

豊かなものにしていると言えると共に、 

バロック的な黄金律でもあるわけです。

 

1→6→4→2と進む和音の進行の中で、

バス音が1→7→6→5→4→3→2と 

規則的にメジャースケール上を一音づつ、 

下降していきます。 

 

もしかすると、こうしたバロック的進行には、 

人間の根源的な部分の琴線に触れるような 

何らかの作用があるのかも知れませんね。 

 

因みに、このクリシェとも言える手法は、 

ジョン・レノンの最も得意なものでもあり、

この67年前後は多く使っていたと感じられ、 

Strawberry Fields Foreverなどを始めとして、

他の曲でも頻繁に見られるものです。

(クリシェというのは、同一的和音の際、

バス音等が、 半音や全音で上行ないし

下行することです) 

 

また、当時軽音楽シーンを席巻した、 

プロコル・ハルムの「青い影」が典型的な 

同様の進行を持っており、同曲を絶賛した 

ジョン・レノンは当然に影響を受けている 

ということも言えると思われます。 

 

ただ、「青い影」の発表とペパーの発表は 

全くの同時期であり、「青い影」の発表を待たずしても 

レノンはこの和声を自分のものとして

既に会得していたということは考えられます。 

しかし、何れにせよ、

それらの根源はバロック音楽にあった

ということは明白であると思われます。 

 

もっとも、すべての曲でそうなのですが、 

P・マッカートニーによるベースの音どりは、 

上で上げた下降音のみならず、 

必ずと言っていいほど、小気味よく、7thや 

テンション(9thや13th)を入れ込んできます。 

 

このポールによるテンションの入れ込みは、

ビートルズ楽曲を和声的により豊かで新しいもの 

にしている絶対的要素の一つと言え、 

バロックからの変化・発展として見ることも

できると思われるのです。 

 

(③管弦楽器による盛り上げ) 

この楽曲で最も強烈な印象を感じるのは、 

中間部のオーケストラによる盛り上がり。 

 

ここでは各管弦楽器奏者に対し、 

最低音高から最高音高へ上昇させ、同時に、

ピアニシモからフォルテシモで演奏させる、

というような指示があったようです。 

 

各楽器がまるで競争するかのように、 

概ね半音上昇していき、全体として 

非常に不協和感の強い場面です。 

中ではトランペットの上昇音が印象的です。 

(David Masonらによる演奏のようです) 

 

そして、重要なことは、これほど強烈な 

オーケストレーションであるにも関わらず、 

バンド演奏は途切れることなく、 

しっかりと続いているところです。 

 

ピアノはヴァースキーのGの和音を基調とし、 

半音上昇などをバス音で絡めたりして、 

最終的には、次なる展開部のEの和音に繋げています。 

 

(④展開部) 

管弦楽器の盛り上がりが終わり、

ピアノによるEコード(E5気味)が鳴り続け、 

P・マッカートニー作曲の展開部に移行。 

 

さてここで、ヴァースのトニック「G」から、 

何故「E」に変化させたのでしょうか? 

 

普通の解釈では、

元のキーの平行調からの同主調転調。 

ジャズなどでよく見られる転調です。 

つまり、Gの平行調であるⅥ和音「Em」の 

同主調である「E」です。 

 

しかし、私は別の解釈を発表します。 

恐らく、どの文献・資料にも出ていないでしょう。 

 

ずばり、この「E」はGスケールの13th、 

サーティーンスのテンションノート。 

それをルートにしてキーコードにした。

私はそう解釈しました。 

 

何故そう考えたのか。

恐らくジョージ・マーティンの指示により、 

管弦楽奏者に最高音と最強音を出させました。 

であるならば、音階上の最高音にも最終的に

到達するという発想もありではないかと思ったのです。 

 

それが奇しくも「E」なのです。 

つまり「E」はGキー音階の13thのテンションで、 

協和音を構成するという視点で考えた場合に

おける音階上の最高音なのです。

 

 (厳密には14thが最高音ですが、△7th

と同様と見なされ、音階上の最高音という

意味では13thが考えられます。因みに

15thは一巡した元キーのトニックです) 

 

よって、この「E」ノートをコードとして、

盛り上がり後にも鳴り続けさせたということ

なのではと解釈したわけなのです。 

(今となってしまっては、このことは、 

天国のG.マーティンのみぞ知ることですが...) 

 

つまり、各楽器の持つ最高音と最強音に加えて、 

Gキー音階上の和声的な最高音も併せて表現した。 

繰り返しますが、物理的な最高音に加えて、 

概念的な最高音も配置させたのではないのか、 

恐らくマーティンとマッカートニーの事なので、 

こんな事まで考えて徹底させたのではないのか、 

ということなのです。 

 

もし、そうした考えによって行われたのなら、 

これは言わば美学的見地による「最高」の表現。 

この楽曲とアルバム全体に一貫した「完全性」

の一端と言うことができると思えるのです。 

 

(実際的な部分では、最も主体となる弦楽器、 

特にバイオリン等が明確に出せる最高音が「E」で 

あったからなどというインストルメンテーション上 

の別の理由があったかもしれませんが) 

 

さて「E」で始まった展開部... 

ここの進行はEキーで基本的には 

「Ⅰ→Ⅶ→Ⅰ→Ⅴ→Ⅰ→Ⅴ」(1-7-1-5-1-5)を 

2回繰り返した後、管弦楽器の重厚な伴奏と

共に「Ah、Ah」というスキャットと同時に

短3度転調をして、元キーのGに戻りますが、

転調後の最初の和音は元のキーの

サブドミナント(Ⅳ) という面白いものです。 

 

ここでの転調手法は、Eキーのドミナントで

ある 「B」から、Gキーのサブドミナントの

「C」に突然移行するわけで、これは半音の

導音機能による転調と言っていいと思います。 

 

ちなみにこの展開部の最後の転調場面は、

Gキーで「4-1-5-2-6-4-1-5-2-6-5-4-5」で 

ドミナントモーションで再度ジョン.レノン

作曲の最終ヴァースに移行します。 

 

(⑤最終ヴァース) 

展開部で既に転調してGキーに戻っており、 

最初のヴァースと同様に最終ヴァースとなります。 

 

私は予てより、この最終ヴァースのテンポが 

最初のヴァースより明らかに早くなっている

と思っていたので、今回改めてテンポを計測

してみました。 

 

すると、最初のヴァースのテンポは、 

♪=130前後であるのに対し、最終ヴァースは 

♪=138前後となっていました。

 

しかし、この楽曲においてのこのテンポの

速まりは、最後の盛り上げという意味で、

基本的にいい効果となっていると感じます。 

 

(⑥再度管弦楽器による盛り上げ) 

③の最初の盛り上げと同様ですが、

コントラバスなどの低音楽器の動きが 

最初の盛り上げとは若干違い、 

上昇ではなく、半音下降なども目立ち、 

(③にもありますが、⑥はより明確です)

より混沌とした状態になっています。 

 

最終的な最高音は「E」あたりに収束しています。 

 

(⑦ピアノ多重録音による最終コーダ) 

⑥の管弦楽器の盛り上げが終わると同時に 

最後はピアノの多重録音によるコーダで 

残響音とともに荘厳な雰囲気を醸しながら、 

曲は終焉します。 

 

ここでの最終和音は、またもや「E」 

Gキーのトニック「G」ではなく「E」 

 

これも前述したGキーの13thテンション

ノートを和音として提示したということ

なのではないか、と思うのです。 

 

ちなみに、私はずっとこの場面は「E△7」の 

四和音と思いこんでいましたが、

ここは「E」の純然たるトライアド(三和音)

のようです。しかし、相当数のピアノ台数と

オーバーダブのために揺らぎのような倍音

がかなり聞こえますね。 

 

E△7の「△7」というのは、ルートの半音下の音。 

EであればE♭なわけで、この近接性が△7コード 

ならではの独特の味を生み出すわけですが、 

私がE△7と感じたのは、倍音の極度の揺らめきにより、 

半音下のE♭のような音があると錯覚

させられた為だったのかと、

今回改めて思うことができました。 

 

(最後に) 

最低音から最高音へ... 

ピアニッシモからフォルテシモへ... 

そして、私の分析した13th音を和音化 

しての概念的な最高音での最後。 

 

この曲の最大の見せ場である、 

この管弦楽器による盛り上げの部分は、 

地球または人類の歴史の初めから現在までを 

表現しているような気がします。

 

そして、 最終コーダは「終わり」のような

ものを表現しているのではなく、「今」を

表現しているのではないかと思えます。 

分析中、ふっとそんな事が頭を過りました。 

 

歴史の積み重ねの上での「今」。 

ジャケット写真において様々な歴史上の 

人物を登場させていることにも符合します。 

 

バーンスタインの言葉を借りるまでもなく、 

この楽曲、そして、このアルバムが、

永遠ともいえる「若さ」を感じる由縁は 

そんなところにあるのかもしれません。 

あくまで、私の独自の見解に過ぎませんが... 

 

 

参考資料/なし 

 

 

※和音進行の部分など、取り急ぎのため、 

若干誤りがあるかもしれません。 

追って再度確認しつつ、修正していきます。 

 

 

第65回「Wouldn't It Be Nice」(1966)/The Beach Boys

 

 

 

ロック名曲百選/過去記事一覧 

★第1章「ロック名曲・アトランダム編」 

第1回「Sexy Sadie」(1968)/The Beatles 

第2回「Ask Me Why」(1963)/The Beatles 

第3回「Epitaph」(1969)/King Crimson 

第4回「Speak To Me~Breath」(1973)/Pink Floyd 

第5回「You Never Give Me Your Money」(1969)/The Beatles 

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第9回「New Kid In Town」(1976)/Eagles 

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第38回「Roxanne」(1978)/The Police 

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★第2章「ロック名曲・ロックのルーツ編」

第40回「Rock Around The Clock」(1954)/Bill Haley & His Comets 

第41回「Johnny B Goode」(1958)/Chuck Berry 

第42回「Rock And Roll Music」(1957)/Chuck Berry 

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★第3章「ロック名曲・ロックの確立期編」 

第50回「Please Please Me」(1963)/The Beatles 

第51回「This Boy」(1963)/The Beatles 

第52回「All My Loving」(1963)/The Beatles

第53回「Tell Me」(1964)/The Rolling Stones 

第54回「Blowin' In The Wind」(1963)/Bob Dylan 

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第57回「Here,There And Everywhere」(1966)/The Beatles

第58回「Paint It,Black」(1966)/The Rolling Stones 

第59回「You Really Got Me」(1964)/The Kinks 

第60回「I Get Around」(1964)/The Beach Boys 

第61回「Sunshine Of Your Love」(1967)/Cream 

第62回①「Strawberry Fields Forever」(1967)/The Beatles 

第62回②「Strawberry Fields Forever」(1967)/The Beatles 

第63回①「Penny Lane」(1967)/The Beatles 

第63回②「Penny Lane」(1967)/The Beatles 

第63回③「Penny Lane」(1967)/The Beatles